英語教育と探究学習の未来を切り拓く取り組みが全国で広がっています。大学入試改革や学習指導要領の変更を受け、英語4技能と探究的な学びが注目される中、子どもたちの可能性を広げる場を提供している団体があります。今回は一般社団法人英語4技能・探究学習推進協会にインタビューし、英語教育の本質や将来性、そして保護者が知っておくべき子どもの英語学習のポイントについて伺いました。
今回お話を伺った先生
梶川勝正(かじかわ かつまさ)
「一般社団法人英語4技能・探究学習推進協会」理事。GRASグループ株式会社執行役員
インタビュアー
古岡 秀士(ふるおか ひでし)
「塾シル」を運営する株式会社ユナイトプロジェクトの代表取締役社長。2012年に青山学院大学大学院を卒業し、医療系ポータルサイトの営業を経て独立。塾シルは全国で13,000教室以上の学習塾を掲載している。
500名が挑む『Change Maker Awards』~英語プレゼンで発信する探究学習
——本日は「英語4技能・探究学習推進協会」に英語学習について。まずは協会の設立についてご紹介いただけますか?
当協会は2018年に設立され、現在7年目を迎えています。当時、英語の学習指導要領にアウトプットを重視する流れがあり、大学入試で英語のスピーキングが必須になりました。また同時に探究的な学びに注目が集まり始めた頃でもありました。この二つに対応できる機関がないことに課題を感じ、その発展を目的として設立されました。
——主な取り組みにはどういったものがありますか?
私たちは主に、3つの大きな取り組みを展開しています。まず、中高生向けのプレゼンコンテスト「Change Maker Awards(CMA)」を毎年開催し、次世代を担う若者の育成に力を入れています。次に、教育現場で活躍される先生方や教育関係者向けに、英語教育や探究的な学びを促進するためのセミナー「ESIBLA教育フォーラム」を実施しています。さらに、探究学習の最新動向や実践事例を網羅した「探究学習白書」を年度ごとに発行し、教育界の知見の共有と発展に貢献しています。
その中でも、CMAは大きな事業といっても過言ではありません。CMAは、自らの探究活動の成果を英語で発表するコンテストで、中高生であれば誰でも参加できます。成績優秀者には海外留学などの学習支援を行っています。
——営利企業ではなく、一般社団法人としてスタートしたのはなぜですか?
特定の企業が運営する英語系のイベント英語や探究のプレゼンコンテストでは、どうしてもビジネス色が強くなってしまう側面があると思います。それだと裾野が広がりづらいことが予想されるため、もっと公的な形で英語や探究をがんばっている子どもたちが目指せるような、野球でいう甲子園的な形にしたいという思いがあったので、業界に関わる事業者や団体同士が垣根を越えて巻き込む形で「市場全体を活性化しましょう」という趣旨で参加を募りました。そのような大会の構想を運営する組織として公的な団体が望ましいと考え、複数の企業からも賛同を得て社団法人の設立に至りました。
——一度大会を拝見させていただきました。学生たちがハキハキと話し、受け答えも英語でしっかりとできていて素晴らしいと思いました。英語や探究をがんばっている子どもたちの励みになる場所になっていますね。
「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に改編され、2022年度から必修科目化されましたが、ゴールが簡単に見えるものではありません。目標や中継地点がないと、進むべき方向がわからずモチベーションを維持できません。
受験勉強のために英語を学んだり探究活動をするのは、教育で求められていることの本質とは乖離しています。受験英語という特別な英語があるわけではなく、普段の活動やワークが「誰に何を発信したいか」という部分があって初めて手段として機能するものです。
大学入試の総合型選抜や推薦選抜のために行うのではなく、自分の探究心や熱意をもって研究できるテーマを深掘りし、その過程でさまざまな学びを得ていくことが本来の探究の目指すところだと考えています。
この趣旨は大会の評価基準にも反映させており、探究内容を重視しています。英語が流暢でも内容が薄ければ評価は低く、多少拙くても探究内容がしっかりしていれば評価される仕組みになっています。英語力も重要ですが、「誰に何を伝えたいか」という部分を重要だと考えています。
——何名の生徒がこの大会に参加するのですか?
エントリーは地方ブロック予選、地方決勝、全国大会の3段階で構成されています。最終の全国大会はリアルな会場で開催し、個人部門10名、チーム部門10チームが参加しますが、最初のエントリー段階では、個人部門・チーム部門合わせて約500名のエントリーがあります。
——勝ち抜いてきた子どもたちが最後に実際に登壇して発表することは大きな励みになりますね。
大会は途中でコロナ禍によりオンライン開催となった時期が第3・4回と2回ほどありましたが、2回前の第5回からリアル開催に戻りました。毎年決勝に残る常連校も少しずつ出てきています。初年度のエントリー数は約100名からスタートし、コロナ禍を経て徐々に増え、現在は約500名のエントリー数となっています。
生成AI時代の英語学習!再度評価される英語を学ぶ価値とは?
——グローバル社会において英語力を身につけることのメリットや将来への影響について教えていただけますか?
ここ数年でChatGPTをはじめとした生成AIでできることが増えたことで、そもそも語学を学ぶ必要があるのかという議論も当然出てきます。しかし、技術的には自動運転が出てきても自分で運転してみたいと思う人がいるように、人間として自分の言葉で誰かに何かを伝えたいというコミュニケーションへの内発的な動機は消えません。
最終的に語学は手段であり、それ自体が目標になることは少ないと思います。「英語が話せるようになりたいですか」と質問すると、ほぼ全員が「はい」と答えますが、「話せるようになったら誰と何を話したいですか」という問いには多くの学生が答えられません。
——たしかに! 英語を話したいという人は多いですが、何に使うのかという目的についてはほとんど聞くことがありませんね。
手段と目的が逆転していたり、漠然と話したいという気持ちはあっても、英語ができるようになって何をしたいのかという部分がないと、語学習得は挫折してしまいます。明確なゴールが見えない状態で継続するのは非常に難しいのです。
一般的に言えば、英語力があれば接することのできる情報量は日本語と比較して10倍以上になります。日本語だけでコミュニケーションが取れる人は約1億人ですが、英語などの他言語を話せることでコミュニケーション可能な人の数は格段に増えます。現代社会ではグローバルスタンダードである英語ができることで広く世界につながることができます。
——先日の朝日新聞で2050年には日本の人口において外国人が1割に達するという記事があり、話題になっていました。国外だけでなく国内においても英語の価値は高まりそうです。
これまでは留学経験のある一部の人だけがその価値を実感していましたが、現在はインターネットの発達により、オンライン英会話のようなサービスで海外の人と直接会話ができ、留学せずとも国際的な体験が可能になっています。公立の中学校や小学校でもこうした機会が増えています。
これらの体験を通じて「何を誰に伝えたいか」という内発的な動機が生まれ、その手段として語学が機能するのが理想的です。今後はインバウンド観光客の増加により、都市部だけでなく地方でも外国人観光客と接する機会が増えていきます。
完璧でなくても基本的な英語でコミュニケーションができれば、再訪問の可能性が高まります。SNSの発達により地方の小さな店舗でも世界的に注目される可能性が広がっています。地方でも語学の必要性を感じる機会が増え、学ぶ動機が自然と育まれる環境になっています。
デジタル化で変わる学習環境~3つの場で効率的に英語力アップ!
——学校教育でもオンライン英語学習が始まり、10年前では考えられなかった変化です。今後学校での英語教育はどのように変化していくのでしょうか?
語学学習における反復練習や基礎練習は重要ですが、デジタル技術の発達により、かつて大教室で全員が行っていたパターンプラクティスのような練習や知識の伝達は、よりデジタルに置き換わっていくと思います。
これにより、学校という集団でしかできないこととデジタルでできることの住み分けが進んでいます。大きく分けると、「教室という場」「オンラインでの対人コミュニケーションの場(オンライン英会話の場)」「AIとの練習の場」の3つがあります。知識の伝達やパターンプラクティスのようなトレーニングはAIが担う部分が増え、実際に使って練習する体験はオンラインで可能になってきています。
——となると、知識の伝達などはAIに代替されるため、学校の存在が希薄になるということでしょうか?
いいえ、そんなことはありません。学校では、学習指導要領で定められている「協働的な学び」や「主体的・対話的で深い学び」、探究活動が中心になるでしょう。語学においても、単なる練習は個人でもできますが、その言語を使って実際に何かを行う活動は学校のような場でこそ意味を持ちます。学校教育では探究的な学びを重視し、英語の基礎知識はオンラインなどに移行していきます。この流れは避けられないでしょう。
——なるほど。学校ではより探究学習が活発になるということですね。学校外で英語力を身につけるために子どもたちにお勧めの場所はありますか?
さまざまな選択肢があります。対面型の英語塾はもちろん、オンラインで学べる多様なサービスも存在します。塾でもオンラインシステムや外部サービスとの連携が進んでいるので、それらを上手く活用するとよいでしょう。
非常に強い意志があれば一人でも学べますが、学習環境があることで継続しやすくなります。オンラインサービスやeラーニングを取り入れる塾も増えているので、講師にコーディネートしてもらいながら進めるのもおすすめです。
自立して学んでいけることが理想ではありますが、現実的には難しい面もあります。適切な環境で学ぶ価値は大きいと考えます。
わが子の英語教育で迷ったら? 専門家が教える焦らない進路対策のヒント
——子どもたちの主体的な探究学習を促すためには、自ら学ぶ意欲を持つことが重要です。しかし、すべての子どもがそうした高いモチベーションを持っているわけではありません。探究学習に自ら取り組めていない子どもたちが主体的に楽しく英語を学ぶためにはどうすればよいでしょうか?
難しい課題です。現在の義務教育では中学生になる頃には多くの子どもが英語に苦手意識を持つ傾向があり、それが低年齢化しているようです。できるだけ早い時期に、文法的な正確さよりも「伝わる楽しさ」を体験することが重要になってきます。普段使う言語以外で、身振り手振りも交えながら誰かとつながれた体験が少しでもあれば、その後のモチベーションに大きな影響を与えます。
必ずしも留学経験である必要はなく、オンラインで英語しか話せない相手とのコミュニケーションや、「もう少しこう話せば伝わったかもしれない」という悔しい体験も含め、実際の言語の使用体験がその後の学習姿勢を大きく変えていきます。
——これからの社会で英語のスキルはどのような位置付けになるとお考えですか?
従来は英語や語学に力を入れる人は国際系の学部への進学や海外留学、将来的に外資系企業に勤めるといった「外に出ていくための道具」というイメージが強かったですが、その側面は今でも存在します。
しかし一方で、観光地に限らず、語学を媒介としてさまざまな小規模なビジネスでも活用できるようになっています。日本酒や伝統工芸品など地元の産業や商品を海外に発信するために語学ができることで、地方の製品の販路拡大や観光客誘致につながるような構造が発達しています。
今後はより日常生活や通常の業務の中で外国語を使う人が増え、地域に根ざした仕事をしている人にとっても、語学が地域経済の発展に貢献するツールになっていきます。語学は「外に出るための道具」だけではなく、「外の需要を地元に取り込むための道具」としての側面も強まると考えています。
——昔は英語が特殊技能や一部のエリート層のものというイメージがありましたね。
今では留学経験がなくてもSNSなどを通じて発信するインフルエンサーも多くいます。日本酒や伝統工芸のような分野でも、その地域でしか得られない価値を海外に発信できるかどうかが、商品の価値や流通範囲に大きく影響します。以前は大手メーカーの流通網に乗せないと難しかった部分も、語学力があることで変化しています。
SNSを通じて地方の店舗が話題になり観光客が訪れるサイクルが生まれる一方で、言語が通じず満足な体験ができないとSNSでの評判が下がり、次につながらないケースも出てくるでしょう。
——インバウンド需要の高まると、たとえばSNSで「このカフェは英語対応可能」といった情報が広がり、外国人観光客の来訪につながりますね。
大学レベルの英語や、MBA取得、外資系企業で通用するようなハイレベルな英語力を全員が身につける必要はなく、それぞれの場面で必要となる語学力を持つことで十分な可能性が広がります。
——この記事を読む方には保護者も多いです。特に子どもの英語教育に関心を持ち悩んでいる保護者に向けて、アドバイスをいただけますか。
外部の情報に惑わされず焦らずじっくり向き合うことが大切です。まずは基礎となる日本語をしっかりと身につけさせることを優先してください。早期から中途半端に英語学習を始めるよりも、低年齢の時には正確さよりもコミュニケーションの楽しさを体験させることが重要になってきます。身振り手振りを交えてでも誰かとつながる体験があれば、その後のモチベーションに大きく影響します。
留学経験がなくてもオンラインでの国際交流で十分な体験が得られます。子どもが興味を持ったタイミングで自然に進めるよう見守って欲しいですね。理想の英語話者像にこだわらず、内発的な動機を重視し、受動的に「やらされている」感覚ではなく自主性を育てることが重要になってきます。完璧な英語力よりも、実践的な英語に触れることで心理的ハードルを下げることができます。
どの年齢にも言えることですが、英語嫌いにさせないことが最初の目標になってきます。「何のために英語を学ぶのか」という目的意識を育てることを優先し、日本語の運用能力や思考力の土台をしっかり築いていくことが長期的には効果的だと考えています。
——本日はありがとうございました。
取材協力:一般社団法人英語4技能・探究学習推進協会
※本記事に掲載している情報は記事執筆時点のものです。料金・キャンペーンなどの最新情報は各教室にお問い合わせください。